2008年10月15日

夜のみだらな鳥

夜のみだらな鳥 (ラテンアメリカの文学 (11))
ホセ・ドノソ
4081260117

囲い込まれた閉塞感のなかで一切の統一性を拒否しながら疾走する淫靡な想像力。フリークスの迷宮のなかに閉じ込められた<ボーイ>、九つの穴を縫い塞がれたインブンチェ、それらは飛ぶ、時空を越えて、存在の境界を越えて、たやすく別の者となることを繰り返しながら。

わざわざ大学図書館まで借りにいった甲斐があった。
posted by nadja. at 22:15| 小説*海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月14日

美しくない数式

フクヤマを観に『容疑者Xの献身』を観に行ってきた。ほぼ原作通り。もちろん内海刑事は抜きにして。松雪泰子の美しいこと、堤真一の芸達者なこと、フクヤマの大根っぷりが目立つ目立つ、でもやっぱり上映中何度も「そのカットで止めて!」と思ったことです、ええ。

天才物理学者と天才数学者の対決だけあってトリックもとても面白いし、話じたいよく出来ていて、「名作」の部類に入るのは確かだと思う。映画化にあたってもおふざけ抜きで、ドラマのときみたくフクヤマがいきなりびゃーっと数式を書き始めたりはしない(あの演出はなかったよね)。映画館まで観にいっても、損はしない作品、のはず、たぶん。

ただ、原作を読んだときも思ったけど映画を観てもやはり感想は同じ。ラストがどうしても気に食わない。あれこそ最大の裏切りなんではないだろうか。あそこは、泣いて、泣いて、泣き崩れて、深く頭を下げる、で終わってほしい。いくら人倫にもとることであっても。アッペルとハーケンの四色問題の証明を「美しくない」とはねつけた数学者が作り上げた完璧な数式が、結局最後は人間の弱さによって崩壊していくさまを見るのはしのびない。彼は、貴女の、幸せを願ったのですから。貴女は、その大いなる犠牲を受け入れるべきではなかったですか。口を噤み、罪の深さに怯えながら、それでも強く、したたかに、彼が贈ろうとした幸福を、耐えるべきではなかったですか。

…そこが文学作品とミステリ作品の差なのかもしれない。「安全な」ミステリ作品においては罪には罰が必ず用意されている。安全さと美しさは並存しえない。石神さん、貴方の美しい数式には、瑕疵がありましたね。人は、完璧な論理に従えるほど、強くはないのです。

容疑者Xの献身 (文春文庫 ひ 13-7)
東野 圭吾
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posted by nadja. at 19:07| film | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月13日

NEUTRAL MILK HOTELが大好きです。

In the Aeroplane Over the Sea
Neutral Milk Hotel
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たぶんこれも『夜のみだらな鳥』からの連想で聞きたくなった、のかな。実は最近全然音楽が聴けなくて困っていた。鬼の猛勉強をしていた8月、なんせちょっとでも気を緩めるとすぐに主語と述語がばらばらになって意味が宇宙のかなたに飛び去ってしまうような極悪な日本語(あれ本当に日本語?)と格闘していたので、BGMも許してもらえなかったのだ。そうしたら今度は無音の状態に慣れてしまって、うちのケンウッド、いや、半分はデノン、はすっかり埃まみれになった(アンプも買わなきゃなー。ついでだから書くけど5年半で5回目の修理なんかできるかバカヤローの掛け声とともに粗大ゴミに出されたケンウッドの後釜にやってきたデノンのDCD-755AEはお値段の割にはとっても丈夫で安定していて、もうすぐ2年になるけど一度も修理の憂き目にはあってません。逞しい子です)。

今日は朝から天気がいいし、ハイビスカスは今年たぶん最後の花が2つ咲いてるし、クリスマスローズを株分けして、サルビアをちょきちょき切ってドライフラワーにし、成仏なさったベゴニアを丁重に葬って、育ちすぎて植木鉢の中で大暴れしていたヘデラを植えかえ、手が土まみれになったのでついでに部屋中の大掃除をしてほっと一息、と思ったときに選んだのがこのCDだったわけです、ああ、前置き長かった。

暑くもなく寒くもなく、柔らかい日差しが部屋の中まで入ってきて、とても気持ちの良い休日の朝に、底抜けに不幸で底抜けに悲しく底抜けに明るい音楽を聞く幸せ。このCD、アートワークも素晴らしい。「two-headed boy pt.two」のとってもとっても優しいギターが心に沁みる。私はNEUTRAL MILK HOTELが大好きです。
posted by nadja. at 11:07| music | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月09日

グーグーだって猫である…

全メガデスファン必見!!

そう、きょんきょん(いまだにこの呼称はいいのか、小泉今日子、と書くべきか)と加瀬亮の、アメショーの仔猫がつぶらな瞳でこっちをじっと見つめているあの可愛らしいフライヤーの、大島弓子原作の、いかにものんびりのほほんな猫映画、と思われる、『グーグーだって猫である』(公式コチラ)、ああ、もう、くそっ、何度でも書いてやる、全メガデスファン必見なんだってば!

映画館で叫んでしまった。

マーティ!



ああ………。

映画のほうも、きょんきょんにもグーグーにも罪はないけど、それはそれは中途半端なつくりで、大変残念でありました。

せめて、グーグーをペットショップで買うのでなくて、殺処分の子を引き取るとか、里親さんになるとか、野良さんを連れて帰るとか、そういう設定だったら、気持ちだけでも救われたのにな、と思ったことです。
posted by nadja. at 20:34| film | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月02日

解体のこころみ

哲学者の密室 (創元推理文庫)
笠井 潔
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ついに読了、1160ページ、厚さ4.5センチのお化け文庫本。とはいえそんな「大部」のものを読んだという感じはあんまりしない。あの地獄的に読みにくい(というかいまだに読了できていない)『テロルの現象学―観念批判論序説』に比べたら文章もつらつらとスムーズに流れて読みやすく、なんといっても本書で俎上に上げられているのはマルティン・ハルバッハ、失笑がこみあげてくるぐらい、おもいっきりマルティン・ハイデガーでしかない老哲学者の「死の哲学」、おまけにエマニュエル・ガドナス、これまたエマニュエル・レヴィナスの、「イリヤ」の思想までもが副菜として添えられているのだから、なまじ哲学をかじったことのある身としては面白くないわけがないのだ。

今回もまた的外れな推理を自信たっぷりに披瀝するナディア・モガールはこの際横っちょに置いておく。えー、それはちょっと、という密室トリックも、どこからそんな推理を導き出すのかさっぱり不明な矢吹駆の本質直観もさほど興味はない。「ナチズムとハイデガー」。もうこれだけでおなかいっぱい。人間の至高性を保証する死、英雄的な死、という観念を1160ページでじっくり解体する試み。補助線として用いられるレヴィナスの「イリヤ」はかなり単純化されすぎている気がするが、あくまで「推理小説」である以上、形而下に引き下げたうえで展開されるがゆえに非常に分かりやすい言葉が用いられており(ナディア・モガールの「あほっぽさ」は日常感覚を際立たせるのに一役買っている)、とても分かりやすいハイデガー批判の参考書たりえている。もちろんハルバッハ、とされている以上、同一視してはならないし、史実とは異なる設定(ネタバレになるから書かないけどえーそれはいいのか、ほんとにいいのか、と何度も思ったことですよ)もあるため、はなはだしい誤解を生む可能性もある。それでも、この死の観念を巡るハイデガーからレヴィナスへ、という仕掛けはとてもスリリングで、おそらく私自身のなかにもあったに違いないハイデガー哲学の身勝手な引用、今となっては恥ずかしさの感覚と一緒に思い起こされるテーゼ、もまた、ゆるやかに解体されていく心地よさを味わった。補助文献としてアガンベンの『アウシュヴィッツの残りのもの―アルシーヴと証人』なんぞを読んでみるのもよろしいかも。

第5作は『オイディプス症候群』なんだとか。次はあれか、あれなのか!?
posted by nadja. at 20:12| ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月29日

悪夢。

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)
マーガレット・アトウッド 斎藤 英治
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ディストピア小説が好きです。何かいいのがあったら教えてください。

近未来、ギレアデ。放射能や化学物質に汚染され、キリスト教原理主義に基づく徹底したバースコントロールが実施されている。ザミャーチン『われら』よりもハックスリー『素晴らしい新世界』よりもオーウェル『1984』よりもなまなましく怖いのは、そのバースコントロールが「侍女」という生身の女の身体を用いて行われているからで、しかもアトウッドはあからさまに悪意をこめて、そのグロテスクな「儀式」の様子を描く。妻は足を開いて横たわり、その足のあいだに侍女をはさみ、侍女の腕を押さえつける。そうして夫である司令官は、まるで妻と交わるかのように、侍女と交わる。産めない妻の屈辱と、産める侍女の屈辱が交錯する。いや、司令官の屈辱もまた。要するに、誰もがみな屈辱を味わっている。しかしいったい、何のために。

さらにこの物語の場合、侍女が「昔」を覚えているからさらに怖い。あくまでこの物語は、「ギレアデ初期」の物語なのだ。そのすぐ以前には、普通の暮らしがあった。愛する人がいて、愛する娘がいる普通の暮らし。悪夢は突然にやってきた。侍女は夜になるたびに普通の暮らしを思い出す。そして比較する。残酷な設定である。

リアリティはさほどないけれど、この意地の悪さは直接、今、この世界の滑稽さ、異常さも抉りだす。最終章の仕掛けも含めて、まるで先の読めない悪夢が次々に展開する。読み応えのある物語だった。
posted by nadja. at 23:33| 小説*海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月25日

音楽だけが悪を、

沈黙/アビシニアン (角川文庫)
古川 日出男
4043636024

凄い! 言葉が煮えたぎってる!

と思ったのだった。『沈黙』は「ルコ」と呼ばれる音楽を巡っての壮大な年代記。『ベルカ、吠えないのか?』も破壊力満点だったけど、さらに上をいく。エリクソンの『黒い時計の旅』『Xのアーチ』を足したような(ということはマジモロ私好みの)、そこにさらにガルシア・マルケスの夢幻と、翻訳されていない言葉のダイレクトなリズムを加えたら、そりゃあ圧倒されるに決まってる。この人は音楽を言葉で表現する。もしかすると、音楽よりも雄弁に。音楽だけが悪を、凌駕する、音楽のような言葉が。『アビシニアン』は一度は保健所に連れられていった猫を奪還した少女が野良猫としての生を獲得し(文字通り彼女は野良猫になってしまう!)、文字を喪失したのちに語り部の少年と出会い恋に落ちる、といういっけん単純な(?)構造をしているが、失読症の世界を言葉で表現するというねじれを巧みに利用して魔術のような言葉でもって一気に読ませてしまう。古川日出男はヴィジョネールである。その幻視に、酔わされる。
posted by nadja. at 18:35| 小説*日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月21日

わからなーいわからなーい

チャンピオンたちの朝食 (ハヤカワ文庫SF)
カート,Jr. ヴォネガット
415010851X

SF? このわけのわからなさはある種そうかも。とにかく私自身が落ち込んだ否定地獄にヴォネガットは効くに違いない、とすがるような気持ちで読んだのだが。なんだこれ。ヴォネガットの自己救済には繋がったのかもしれないがわからなーい、わからなーい、ぜんぜんわからなーい。ポリフォニックもいいところ、しまいには作中人物(キルゴア・トラウト)とヴォネガットが対話までしてしまう。たしかにユーモアのセンスは抜群。ばかばかしくておいおい、と笑えてしまう。どうしようもない否定ならこんなふうに拡散して茶化してふざけてしまうしか、対処法はないのかもしれない。それで少しは楽になったか? NO! 結局救済の物語はそれぞれの個人がそれぞれ用意するしかないのだ! 明日からしばらく、目に映るもの全部を××機械、と置き換えて、楽しんでみることにする。

否定機械が何を言うか!
posted by nadja. at 00:49| SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月20日

最後のユニコーン

最後のユニコーン (ハヤカワ文庫 FT 11)
ピーター・S・ビーグル 鏡 明
4150200114

ユニコーンは、たったひとりで、ライラックの森に住んでいた───。

あるときユニコーンは自分が「最後のユニコーン」だと知ってしまう。そんな、まさか。そうして彼女は森を出る。仲間を捜すために。仲間を解放するために。赤い牡牛と対決するために。

プロップの類型にあてはめてみるまでもなく完璧な構成の冒険物語。言葉も美しく、気高い。へっぽこ魔術師のシュメンドリック、良き理解者であるモリー・グルー、厳めしく悲しいハガード王、逞しい騎士リーア王、この世で最も美しい生き物、ユニコーン。想像力が洗い清められるよう。極上の現実逃避に、なりました。
posted by nadja. at 18:48| 小説*海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月18日

TOKYO!

@梅田ガーデンシネマ。公式サイトこちら。ポン・ジュノ×ミシェル・ゴンドリー×レオス・カラックスがTOKYOを撮るオムニバス。カラックス目当てで行ったんだけど正真正銘MERDO!(仏語で糞)な作品で痛み入る…。『ポーラX』から9年、9年待ったあげくがこれだなんて、脱力の果てに椅子にめり込みそうになる。ドゥニ・ラヴァンとのコンビ復活したうえでこれだなんて、これだなんて、これだなんて…「ひどい」という言葉すら失わせる力作(号泣)。開始直後の「糞」の字のネオンサインに吹き出す人もちらほら。TOKYOを裸足のドゥニ・ラヴァンが行く野蛮。続きはNYにて(ってホントかよ!?)。

ゴンドリーの「インテリア・デザイン」もジュノの「シェイキング東京」もよかっただけに、遊んでんじゃねーよ! 

とかなんとか、かなり面白かったんだけどね(笑)。
posted by nadja. at 23:38| film | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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