2008年11月29日

カッコウがそっと三度鳴きさえすれば

カッコウが鳴くあの一瞬
残雪 近藤 直子

最近本当に図書館にはお世話になりっぱなし。以前から残雪を読んでみたい読んでみたいと思っていたけど、検索してみたらちゃんとあったので。手元においておきたい、という欲望とは最近うまいこと和解している。あの馬鹿知事がとち狂って「売却! 除却処分!」などと言い出さない限り、大丈夫。

女カフカ、というけれど、もっとおかしなことになっていた。物語の枠組みは不明瞭きわまりなく、「話」として成立しているのかいないのかのぎりぎりのライン上で、前後の言葉がうまくかみ合わないまま、整合性などおかまいなしに筆が進んでいく。どこがどう、というわけでもないのにとても切ない。「でも、わたしにはわかっている。カッコウがそっと三度鳴きさえすれば、すぐにも彼に逢えるのだ」。たとえばこんなところ。
posted by nadja. at 01:06| 小説*海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月28日

古くならない

ソクラテスよ、哲学は悪妻に訊け (新潮文庫)
池田 晶子
4101206325

図書館の返却コーナーにあったので手に取る。昨年若くしてお亡くなりになった。この人の文章は雑誌の連載などで見かけるたびによく読んでいた。独特の、切れ味のよい、「哲学エッセイ」は読んでいて楽しい。あるとは何か、考えるとはどういうことか、といった超オーソドックスな「哲学」を、何かの引用に頼ったりせずに書いているところに、私自身はこんな考え方はまったくしないのだけれど、好感が持てる。ずいぶん古い本なのでやり玉にあがっているのはオウム事件だったり唯脳論だったり臨死体験だったりするが、ソクラテスとクサンチッペのやり取りは漫才のようで、退屈しなかった。こういう話は、2000年前から続いているのだから、けっして古くならない。
posted by nadja. at 19:39| その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月22日

不信

CHINESE DEMOCRACY
GUNS N' ROSES
B001JEO9XU

………出たの? ほんとに?

*****

出ちゃいましたねぇ。ガンズのファンの方には怒られそうだけれど、私は「なんだよ今度もやっぱり出なかったのかよ」をほんの少し楽しみにしていた。こうもあっさり出てしまうとなんだか拍子ぬけだ。そうはいっても17年ぶり。聞きたい気持ち半分、聞きたくない気持ち半分。うー。(11/28追記)
posted by nadja. at 23:51| music | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月20日

大阪ヨーロッパ映画祭

大阪ヨーロッパ映画祭の季節。今日はシネ・ヌーヴォで『痛ましき無関心』と『蒼ざめた馬』を。『痛ましき無関心』は大阪初とのことでタイトルがごく自分好みでもあるし、かなり楽しみにしていたのだけれども正直ソクーロフ作品のなかではだめなほうなんじゃないか。原作はバーナード・ショーの『傷心の家』。こっち読まなきゃ何も分からないと思われる。船のような形の奇妙な家(ノアの方舟のような?)に暮らすエキセントリックな一家が砲弾の音を間近に聞きながらどうしようもない頽廃に明け暮れている。嬌声が耳についてうっとうしくてならない。ラストシーンは必然としても、そこに至るまでの一連の映像は、たしかに悪い意味で「痛ましい」ものだった。『蒼ざめた馬』はロープシンの原作から何回か引用したこともあるくらい大好きな一冊なのに、いきなり騒々しいフレンチカンカンで幕をあけた時点でいやな予感がした。原作を隅から隅まで貫いている孤独と身勝手、絶望と虚無感、そんなのは全部どこかへやられてしまって、ただ大公という存在を殺すことに情熱を燃やすかたくななだけの男としてのっぺり描かれていたのがものすごく不満。「すべては虚偽であり、すべては空の空である」、ここは絶対はずしちゃいけない。

蒼ざめた馬 (岩波現代文庫)
ロープシン 川崎 浹
4006021097

さっそく読みなおしにかかる。
posted by nadja. at 01:28| film | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月19日

腐っていく感じ

花腐し (講談社文庫)
松浦 寿輝
4062751216

小説はまだ『もののたはむれ』をたわむれに読んでみただけなのだけど、なんかどれもこれも似たような感じの話。くたびれた中年男が東京のどこかうらぶれたあたりで迷子になり、過去の亡霊(それはたいてい昔の女である)に捕らわれて、ぐずぐずに腐っていく。『花腐し』のほうは腐り方が半端でなくて、本当に腐臭が漂ってきそうなくらい汚らしい。読んでいるこちらも投げやりな気分になってきて、そうだそうだ何もかも腐ってしまえばいいのだ、と自堕落な午後をたゆたってしまいそうになる。
posted by nadja. at 15:00| 小説*日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月18日

雨はコーラがのめない

雨はコーラがのめない (新潮文庫 え 10-14)
江國 香織

雨はコーラがのめない。しとしと降る雨とぱちぱちはじけるコーラはたしかにまじりあわないだろう、明るい世界への漠然とした拒絶、のようなものを感じさせる素敵なタイトルだな、と思っていたけどなかなか江國香織のエッセイなど手にとる機会はなく、昨日図書館でたまたま見かけたので借りた。タイトルを知っていたのはLISA GERMANO「Lullaby for Liquid Pig」のアマゾンレビューに「江国香織が『雨はコーラが飲めない』というエッセイの中でとりあげていて、ライナーノーツを書く依頼があったと言っているので」、と書かれていたから。ちなみに「雨はコーラが飲めない」とのめないを漢字にして検索すると出てこない。どんどんひらがなが増えていく傾向が私はあまり好きではない。

中を開くと「雨」は飼い犬のアメリカン・コッカスパニエルの名であることが判明する。なあんだ。そりゃコーラは飲めないね。雨と、音楽の話がたんたんと続く。カーリー・サイモン、クイーン、尾崎紀世彦、スティング、シェール、リッキー・リー・ジョーンズ、おやおや、LISAはいつ出てくるんだろ。ライナーノーツを書く依頼があったというのはメリー・コクランというアイルランドの女性歌手のことだそう。LISAの国内盤に江國香織のようなビッグネームがライナーを書く、なんてこと、ありえそうにない話だもの。

雨は非常に元気のよい犬である。あちらこちらをかじりまわり、壊しまわり、遊んで遊んでとじゃれついている、とてもかわいい犬。この雨のイメージとLISAのイメージはまるでかぶらない。きっとあの気だるい音をきいたら雨はつまらなく思って眠ってしまうだろう。

そんなことを思いながらぱらぱらページを繰っていくと、雨はかわいそうに、白内障を患って失明してしまう。もちろん江國香織はそのあたりのことを悲劇的に書いたりはしない。ドライな言葉を選びながら、それでも確実に悲しい気持ちが伝わるような、さりげない書き方をする。白く濁った雨の眼球、光を失った犬、さて、そこでLISAだ。

やはり「Lullaby for Liquid Pig」の流れる部屋に雨はいない。ワクチン接種に出かけている。「LISA GERMANOのアルバムは、不在の存在する部屋に、嘘みたいにしっくりなじむ」。ああ、なるほど。私の部屋には不在が満ちているからね。雨が帰ってきたらホイットニー・ヒューストンとかサンタナを、「もっと現実的で雨好みと思われる曲をかけよう」、と江國香織。あらあら、そうですか。

「Lullaby for Liquid Pig」は、今日みたいな薄曇りの日によくなじむ。これで小雨でもふりはじめれば、もっとぴったりなのだけど。

Lullaby for Liquid Pig
Lisa Germano
B000QUTSCU

こちらはYOUNG GODから再発されたボーナストラック入りのもの。わたくしの最も愛する音楽です。
posted by nadja. at 13:45| その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月10日

虎よ、虎よ!

虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)
アルフレッド・ベスター 寺田克也 中田 耕治
4150116342

胸のもやもやがふっとぶようなすかーっとした壮絶な復讐譚、というのを想像して読んだのだが、展開すらジョウント(未来世界において可能になるらしい瞬間移動のこと)してしまうイージーさがどうも受け入れがたかった。巻末付近のタイポグラフィーも唐突すぎてちょっと。感覚の交錯には興味あるけれど、それがあのタイポグラフィーでうまく表現されているとは言い難い。ガリー・フォイルも底が浅いし。1956年の発表当時にはきっと、ものすごく斬新な作品だったのだろう。2008年においては、残酷さが足りず、複雑さが足りない。
posted by nadja. at 23:08| SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月07日

さようなら、ギャングたち

さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)
高橋 源一郎
4061975625

えー、ホントに読むのかな、と思いつつなんとなく図書館で借りてみる。案の定わけがわからないのだけれど、わからないながらもきちんと「小説」として読めてしまったこの不思議。それも読みやすい。おまけにほろりとさせられた(悔しい)。第一部のタイトルは「中島みゆきソング・ブックを求めて」というのだが、それから連想させられる中原昌也の『マリ&フィフィの虐殺ソング・ブック』の無意味に比べればはるかに何かがある(日本語おかしいな)、何があるのか分からないけど。講談社文芸文庫、というのがどーしても腑に落ちないが、『ジョン・レノン対火星人』も『虹の彼方に』も読んでいいと思った。いやいや、読みます、読ませていただきます、インテリ源ちゃん(なつかしー)。
posted by nadja. at 22:11| 小説*日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月05日

世界は蜜でみたされる

世界は蜜でみたされる―一行物語集
飯田 茂実

こんなの大好き。333の断章。「世界のすべての人びとを愛するために、彼女は電話帳を開き、ひとりひとりの名前を精魂こめて覚え始めた。」「彼は日曜日の出来事を詳細にしたためた日記を一冊書きあげるのに月曜日から土曜日までの六日間を費やして、遺産をゆるゆる食いつぶしている。」「秘密の隠し場所から、青年時代の日記を取りだしてみると、何者かの手で、忘れ難い出来事の数々が書き換えられていた。」などなど。ほとんどイメージの一発勝負だが、イメージを殺さない言葉を選ぶことは本当に難しい。とても良い本だけど、ルビはいらないと思った。
posted by nadja. at 21:22| その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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