2008年03月31日

激しさと極端さの頂点で

幾度目かの最期―久坂葉子作品集 (講談社文芸文庫)
久坂 葉子
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美しいタイトルにひかれ手に取る。何の屈託もない、はじけるような著者の笑顔もまた美しいが、なのにこの強烈な自意識に貫かれた文字列はどうしてこんなに、醜いのか。

意味のない死だ。犬死にだ。苛立つ。腹立たしい。生き延びて、ほんとうの恥ずかしさをもっと知ったならば、もっと哀切なものが書けたであろうに。身勝手に、性急に、己の欲望を爆発させてこの人は散っていったのだ。たぶん羨ましいからこんなに苛立つ。色恋沙汰で死ぬの生きるのといえるような、燃えさかる情熱なんてとっくに忘れた。激しさと極端さの頂点で書かれた文字列が鮮烈さを放っているのは当然のことで、それは人生のある時期にしか書くことができず、決定的にその時期を逸してしまった以上、保身に走る起伏のない日々を耐えるしかなく、そしてそういう視点からこの文字列を眺めると、その潔さが羨ましくて、羨ましくて、ついつい恨みごとのひとつも言いたくなる。
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2008年03月28日

アメリカン・クロニクル

敷島シネポップで『アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生』を。なんというかもうこの人の存在じたいがアメリカの年代記。スクリーンに次から次へ現れるセレブリティの言を待たずとも、ジョン・レノンのあの写真を撮った、ということだけで既に伝説である。華やかな世界で活躍する人独特の自信に溢れており、見ていて非常に気持ちが良かった。たぶんレンズの向こうにもこちらにもこの人の人生はない。ただ、アニー・リーボヴィッツというレンズだけがある。
posted by nadja. at 19:12| Comment(2) | film | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月26日

たいがい恥ずかしい国に住んでいる

「ひょっとすると無理かも」という話を小耳にはさんではいたけれどやっぱり無理だったアントニオ・ネグリの来日について、月曜社の『ウラゲツ☆ブログ』に詳細があがっている。今現在ネグリは亡命政治犯でもなければ政治犯でもない、服役を終えた人だ。政治的なモラルもなければヴィジョンにも欠けているこの国が元政治犯を入国拒否する、という恥ずかしさ。やりきれないニュースばかりが報道される今日このごろですが、この国は文化的側面においても各国に顔向けできないような恥ずかしい国であることを、少しでも多くの人が知ってくださいますよう。(→ウラゲツ☆ブログ
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2008年03月21日

古いけどね

カストロの尼―他四篇
スタンダール 宗 左近
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そしてころっと趣向をかえて。本棚掃除シリーズ。角川から昔出ていた金色のやつ。このリバイバル・コレクション、なかなかつわものぞろい。ロレンスの『翼ある蛇』もこの金色で読んだ。ほかにも何冊か持ってるけどものによっては旧かな遣いだったり字がぎゅうぎゅうに詰まっていたりで読みにくい。それに作品じたいの古さも否めない。いまどきスタンダールを読んだところでそれが日常の話題にのぼることなどまずないのだ。そうはいっても「小説は若い伯爵夫人が徹夜して読むようなおもしろさを持たねばならぬ」と豪語するスタンダールのこと、面白くないわけがない。とくに表題作『カストロの尼』は16世紀イタリアの山賊と貴族令嬢の悲恋物語で、メロドラマとはかくあるべし! の好中篇。ほか四篇はどれも小粒だけれど、野心家たちのぎらぎらした欲望がたぎるイタリアの年代記として興味深い。この角川金色は絶版だけれど、このあいだ岩波で復刊してたのを見た。『赤と黒』や『パルムの僧院』が長すぎていやだという人はどうぞ。
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2008年03月20日

なじめない

MOUSE(マウス) (ハヤカワ文庫JA)
牧野 修
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こういうのをライトノヴェル、っていうんだろうか、とにかく人にいただいたので読んでみた。18歳以上お断りのネバーランドで、腰にドラッグボックスをつけて体内にじかにドラッグを流し込む子どもたち=製薬会社の実験台としてのマウス、の物語。荒廃という表現がばかばかしく感じられるほどの荒れ果てた子どもの島ネバーランド。残酷かつグロテスクな想像力がページから立ちのぼってくる。かなり不快である。ドラッグの副作用で震え、発熱し、殺しあう子どもたち、ドラッグを買うために身体を売り、相手の精神的急所を言葉で突くことによって「落とす」戦いに明け暮れる子どもたち、ここまで子どもたちを虐げる必要がどこにあるのだろう。鋭敏で感覚的な言葉が並んでいるけど、それはとても悲しく響く。悲しさを際立たせるためにこの年齢の子どもたちに残酷な想像力をふるっているのだとしたらそれは卑怯なやりかただ。どうもこの設定にうまくなじめない。ただ、精神的感応を高めていくために唱和しあう言葉のつらなりはシュルレアリスム詩のようで非常に美しい。感覚的な言葉の使い方が上手な作家だと思った。
posted by nadja. at 17:03| Comment(0) | SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月19日

P!

Third
Portishead
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さ、そろそろ貼っておこうかな。

現物を手にするまで試聴なんかしないぞー!
posted by nadja. at 01:53| Comment(0) | music | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月18日

vid. 20080316

ひとつの決意にひとつの歌を添えることにする。こうやって特別な歌が増えていくのは良いことだ、とても。

うた き
小谷美紗子
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いつかあなたに会ったら
笑うの
泣いてはいけないの
いつかあなたに会う日のために
涙は枯らしてしまおう
(T10「生けどりの花」)

腹に響く力強い歌い方。一音節ずつ、自分に言い聞かせるかのように。自分を鼓舞し、励まし、そうして甘さを振りすてるかのように。いつかそんな日が来ようが来るまいがどうでもいい。
posted by nadja. at 01:20| Comment(0) | music | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月13日

いい!

ウルトラ・オレンジ&エマニュエル
ウルトラ・オレンジ&エマニュエル
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こないだ観てきた『潜水服は蝶の夢を見る』のなかで使われていた「don't kiss me goodbye」が耳について離れず、旋律強迫症(そんなのあるのか・笑)を引き起こしていたので購入。素晴らしいの一言に尽きるダメポップ。「ガービッジに対するフランスの返答」というのはまったくあたっていない気がするけど(シャーリーほど主張が激しくない)、とにかくダルダルで、アンニュイ。スカスカの、隙間だらけの不安げな音に舌ったらずな英語が危なっかしいバランスで乗っかっているさまはエロティックですらある。これがフランスの底力か。曲によってはフランシス・マッキーの『sunnymoon』を思わせるような絶望的な暗さを漂わせていたりもして、ますますいい。素晴らしい。
posted by nadja. at 00:42| Comment(0) | music | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月09日

もう走りやめることなんかできない年だし。

長距離走者の孤独 (新潮文庫)
アラン・シリトー
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書籍代をけちるようになんてまさかなりたくなかったのだけど、壮絶に金欠なので新規購入を諦めて本棚を眺めわたしてみたらこれ読んでなかった。軽く15年は眠ってたんじゃないだろうか…。

それでたぶん15年前に読んでいたとしたらそうだその通りだと、走りやめる主人公に首肯したと思うが、今の私はそれは走らなければダメなんだよと、人に期待を寄せられて、なおかつそれにこたえる力があるなら、その期待がどれだけ笑止なものであったとしてもやっぱりきちんとこたえる「義務」があるんだよ、と悲しいことを思う。無理難題をふっかけられたら、不条理をかみしめながらでも、逆に相手が恐縮するくらいの答えをつきつけて、それで? たったそれだけなの? と涼しい顔をしてみせる、のもけっこう孤独だったりする。

年を食ったら読めなくなる小説がある。これなんかまさにそれ。
posted by nadja. at 23:58| Comment(0) | 小説*海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月06日

ちょっと古風だけれども

英国短篇小説の愉しみ〈3〉輝く草地
西崎 憲
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アンナ・カヴァンの『氷』を読んでみたいと思っているのだけど、中央図書館にはないし、買うにもあんなお値段だし、それなら、と思ってamazon.comに洋書で注文だしたら品切れでお断りだし、とりあえずこれを読んでみる。期待通りの気味悪さ。淡々とした文章のなかに知らず知らず対峙させられる得体のしれないもの、の不気味さがとてもよく表現されている。

あとの作品はこれといったものはないけど(だいたい英国小説が苦手だ)キラ=クーチのいうひとの『世界河』は久しぶりにグノーシスの香りぷんぷんの、神の沈黙をそのまんまテーマにすえた作品で、それでいて結末で書かれる神の涙としての水のイメージが美しく、ちょっと忘れられない作品になった。ほかにもけっこうあるので読んでみようかと思う。
posted by nadja. at 21:12| Comment(3) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月02日

ジジェクはこう読め!

ラカンはこう読め!
鈴木 晶
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こう読め!といわれても「ラカンについて」のことなどまるで書かれていないという詐欺みたいな一冊(笑)。ジジェクが大好きな映画やら政治状況やらをラカンが読んだらこうなるでしょう、というジジェク節全開の現代思想超入門本。たぶんタイトルは『ラカンはこう読む。』がふさわしい。次はどの糸を引っ張ってくるんだろうか、次はどんな屁理屈をこねてくるんだろうか、というスリリングさに満ちてはいるけど第7章「政治のひねくれた主体」なんてサド=マゾ倒錯と全体主義と宗教的原理主義がシェイクスピアと並走しながら不信の問題にたどり着こうとしてたどり着けず、結局何を書いてるのかさっぱり分からなかったり。でも頭の体操には良い。逆説的な言説をふりかざしてひねくれた冷笑を浮かべてみたいときの参考書にはもってこい。で、このへんでそろそろ『ジジェクはこう読め!』みたいなのが出てもおかしくないと思われる。
posted by nadja. at 22:51| Comment(0) | 学術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月01日

まばたきだけで

この映画を見て感動しない人が1万人以上いたら私は映画評論家をやめます、とおすぎが豪語する『潜水服は蝶の夢を見る』(http://www.chou-no-yume.com/)を梅田ガーデンシネマで。別におすぎに触発されたわけではない(笑)。感動、まではしなかったのでもしかするとおすぎのキャリアに問題が発生するかもしれないけど、とにかく「潜水服」というイメージに象徴される閉塞感や息苦しさがダイレクトに身体感覚へ訴えかけてくるような苦しい映画だった。脳出血によって全身が麻痺し、ただまばたきだけが世界との通路になってしまった主人公。その肉体=潜水服の内側から構成されたような映像がほんとうにしんどい。伝えたい、とにかく伝えたい、という気持ちが次第に増幅されて叫びたくなる。隣にいるひとの腕にしがみついて身体を揺さぶりたくなった。心よりも身体に響く映画だった。

潜水服は蝶の夢を見る
ジャン=ドミニック ボービー 河野 万里子
4062088673

20万回のまばたきだけで綴られたという原作。こちらも読んでみようと思う。
posted by nadja. at 03:08| film | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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