2004年12月27日

脱獄計画/アドルフォ・ビオイ・カサレス

脱獄計画/現代企画室

「豚の戦記」を昔読んで、とてつもなく暴力的な幻想を描く人だなという印象を持っていたのですが今作ではその暴力的な幻想は人間の意識に直接働きかける形をとって実地に試されることになりました。

まず文体が奇妙です。流刑地に派遣されたヌヴェールの書簡からの抜粋が太字で記され、その甥であるヌヴェールにあまり信をおいていないと思われる「私」の地の文が主に話をひっぱり、それにもうひとりの甥グザヴィエ・ブリサックの書簡がさしはさまれます。流刑地で起こったその「事件」を3つの視点から浮かび上がらせているのですがそのへんはやっぱりマジック・レアリズムの巨匠、いったい何が確定的であるのかは最後まで宙吊りにされます。

この宙吊り感がたまらない、のがラテンアメリカ文学の魅力でしょうか。

本作と対をなすと言われている「モレルの発明」も是非読んでみたいと思いました。
posted by nadja. at 00:16| 小説*海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年12月24日

アフリカの印象/レーモン・ルーセル

アフリカの印象/白水社

1910年といえばいわゆる未来派の人々が「機械」の概念に取り憑かれていた頃、シュルレアリスムはいまだその影もない、そんな時代に「ロクス・ソルス」、孤独な場所に住まう孤独な大富豪は「発明」への情熱を精緻な言葉で表現していました。

それはたとえばかささぎの操縦する彫像であったりみみずの奏でるチターであったりするのですが、157ページになってようやくその解説がほどこされることになる大発明大会、イメージの大サーカス(おそらく原文では様々な言葉がアクロバットを繰り返しているのでしょう)は圧巻です。

・・・正直それがいったいどんな装置であるのか、とうてい想像力がついていかないんですけどね。

157ページから読み始めて最初に戻ると分かりやすいと思います。私は「ルーセル劇場」を二度味わいました。

タルーが自身の血統にスペインの血が混じっていることを誇りにしているあたりとか、散見される「・・・を模した」という表現に「オリエンタリズム」(それもベル・エポックにおける)を読み取ることもできますが、レーモン・ルーセルはそんな陳腐な「現実」とは一切関わりをもっていなかった浮世人なのであって、ひたすらに不思議で奇妙な、そうしてどこか残酷な想像力の戯れに身を任せるのがいいと思います。

現代のテクノロジーはおそらくこの不思議な見世物のうちのいくつかを実際に可能なものにしたと思います。
果たしてこの夢のない時代に、何もかもが可能な世界に、新しいレーモン・ルーセルが再び登場することはまだ、ありえるのでしょうか。
人間のもちうる想像力が最後に放った打ち上げ花火のような気がしてなりません。
posted by nadja. at 01:50| 小説*海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年12月20日

ざくろの色

ざくろの色
ざくろの色

chloeさんのブログでこの作品がDVDになっているのを知りました。本当に嬉しかったです。10年ほど以前にカンテーレが深夜枠で放送していたのを録画した極悪画像では、この作品のよさはちっとも分からないので。

1時間と少し、すべての瞬間が美的、宗教的なイメジャリーに満たされた究極の映像美です。「18世紀アルメニアの詩人サヤト・ノヴァの生涯にオマージュを捧げた美しい映像詩」とあります。そうです、詩です、「物語」ではないのです、連続した意味は決して持たない、それでも何よりも雄弁に「その世界」を語る圧倒的な映像。

監督のセルゲイ・パラジャーノフは私の大好きなタルコフスキーと比較されることの多い監督ですがどうやら実生活でも友人関係にあったようです。私は「火の馬」とこの「ざくろの色」しか見たことがありませんが、これ以上美しい映像はちょっと想像できない、というところまでいってる作品でした。

過剰に、絢爛豪華に、美しいです。
そうして音楽も素晴らしい!
posted by nadja. at 00:40| film | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年12月17日

クムラン/エリエット・アベカシス

クムラン
クムラン/角川文庫

この間ベストセラーになっていた「ダ・ヴィンチ・コード (上)(下)」を読んでこの長大なミステリ、と呼んでいいのかどうか戸惑う、壮大な物語を思い出しました。キリスト教の起源というのは曖昧なものであり、ましてやそれがユダヤ教との関連を考慮に入れるとなるともう脳味噌の中身がでんぐり返ってしまうくらい錯綜しているのですが、本書でエリエット・アベカシスは「エッセネ派」を中心に据えることでなんとなくありえたかもしれない、ありそうな「物語」を書き上げました。

でもそれはあくまで「フィクション」です、何人もの神学者、司教らが「死海写本」のとある巻物(それは現存するのかどうか分かりません、「失われた巻物」じたいがアベカシスの「創造」であると思います、私の乏しい死海写本に関する知識ではそのような巻物が現存するのかどうかを判断できません)をめぐって壮絶な十字架刑に処せられます。そうして当然「ミステリ」であるかぎり犯人も存在するのですが本書に謎解きは一切ありません。やっぱり「ミステリ」のカテゴリは間違っているような気もします。

「イエスとは何者であったのか?」
「何故イエスは磔刑に処せられたのか?」
「ユダは本当に裏切り者であったのか?」

それらの問いに関するひとつの仮説がこの物語の中で提唱されます。ありとあらゆる箇所に詩篇からの引用が散りばめられ、冗長なこと極まりないですが、そうして「うっそーん」な展開を見せるのも事実ですが、20世紀最大の発見と謳われた死海写本をめぐる一連の騒動に関心を抱くきっかけになる本だといえます。たしかに「ベドウィン族が群れからはぐれたヒツジを追っていて偶然写本の入った壷を発見した」という「事実」はあまりに出来すぎていて疑問をさしはさむ余地は十分にある、と私ごときも思っていることです。

が、あくまでフィクション、として読まれたほうが賢明だと思います。
posted by nadja. at 03:19| ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年12月09日

ニーチェ/ジル・ドゥルーズ

ニーチェ
ニーチェ/ちくま学芸文庫

これはその昔中央大学の生協で購入した本です、ブックカバーがそう物語っています。
懐かしいです。
そのまんま読まずに放り出すこと・・・6年? やっと読了はしましたが「学術」のカテゴリに分類していいのかどうか悩みます、というのが正直な感想でしょうか。

「ニーチェ物語」ですね。
ぱらぱらと飛ばし読みするにはいいかもしれません、訳文も分かりやすいし、「ニーチェ的世界の主要登場人物辞典」なんて便利(?)なものも収録されています。
半分以上は「ニーチェ選集」で、哲学者とは何か、哲人ディオニュソス、諸々の力と<力>への意志、などといったテーマに基づいてニーチェの本文を抜粋し羅列してあります。
だから実際ニーチェを読んだことのある人にはまったく不要、なのかもしれませんが編集によって随分と雰囲気は違ってくるものです。

ドゥルーズの提示する世界観はいつも生成に満ちています。本書でも、永遠回帰の神話までが「選択的」なものとして解説されていますが、ホントウにニーチェはそんなに幸福な哲学を説いたのかな、と首をかしげた部分もちらほら。

ドゥルーズがわが身を投げたのは、新たな生成に向けて、自己自身に「然り」というためであった、と考えるなら、やはりそれは同じものが帰ってくるからこそ身を投げたのではないか、と思ったりもするからです。
posted by nadja. at 19:50| 学術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年12月08日

僕の叔父さん 網野善彦/中沢新一

僕の叔父さん 網野善彦
僕の叔父さん 網野善彦/集英社新書

「悪党的思考」「異形の王権」と非常に深いところでコミットしていることだけは知っていましたが、なにぶん日本史に疎いので網野さんの著作まではなかなか手が出せないでいたのでした。
今年の2月27日に網野さんがお亡くなりになり、その後「すばる」に連載された追悼文を大幅に改訂、加筆したものです。

中沢新一さんが日本のアカデミズム界におけるサラブレッドであることは承知ですが、この短期間にこれだけの文章を(少し荒削りなところもありますが)お書きになってしまわれる才能というのはやはり稀有なものだと感じます。

中沢新一さんの著作を拝見していると、「地上にもう一つの場所を」、常に常に「此処ではない、これではない何か」を時に軽やかに、時に深遠に追求してらっしゃるのだな、と痛感します。そうしてそれが単なる机上の空論ではなく、うまく言葉では言い表せないのですが深く深く掘り下げていったならばきっと見つけられる新しいあり方なのではないか、という希望につながっていくところが、私が長く長く、本当に長く中沢新一さんの著作を追い続けている理由でもあります。

私にとっての「アジール」。

カテゴリは一応「学術」にしましたが、網野さんへの中沢新一さんの追慕の念がどのページからも滲み出してくる、ちょっぴり物悲しい評伝であり、また非常に分かりやすい形で提示された日本の戦後思想史へのオマージュでもあるような、ご本人のお言葉を拝借すると「極私的網野論」。
posted by nadja. at 01:59| 学術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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